●Program
1)銀細工 ヘラルド・タメス
瞑 想 レオナルド・コラル
エ色チュード エイトル・ヴィラ=ロボス
No.10、11、12
大聖堂 アグスティン・バリオス
アンダンテ・レリジオーソ
アレグロ・ソレムネ
2)森の中で 武満 徹
ウェインスコット・ポンド
―コーネリア・フォスの絵画から―
ローズデール
ミュアー・ウッズ
変 貌 エルベルト・バスケス
リトマス・ディスタンス 吉松 隆
酸性のベドウィン
アルカリ性のベドウィン
コユンババ カルロ・ドメニコーニ
モデラート
モッソ
カンタービレ
プレスト
●Plofile
メキシコ現代の代表的なギタリストとして内外で精力的に活動し日本でも旧知のアーティスト。
メキシコシティーに生まれ、メキシコ国立音学院ギター科を最優秀の成績で、特別最優秀メダルを得て卒業、マスタークラス受講は、マヌエル・バルエコ、ヘスス・オルテガ等。
1991年第34回東京国際ギターコンクール優勝、同年プエルトリコ国際ギターコンクール第2位。メキシコ、日本に於いてCDレコーディング発売。
ロンドン交響楽団に於いて現代曲 Lalo Schifrinの協奏曲を作曲家自身の指揮によりCDレコーディング。その後北米、ヨーロッパ、メキシコ国内オケとの協演が続く。ソロ活動として北米、キューバ、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアなど国際的に活動。
日本には今回で3回目のコンサートツアーとなる。東京、大阪、広島を含む11か所で公演が予定されている。
●曲目解説
◆銀細工/ヘラルド・タメス
ヘラルド・タメスは1948年メキシコに生まれた作曲家・ギタリスト。1966年、民俗音楽の普及とヌエバ・カンシオン運動のためにメキシコシティにおいて結成された「ロス・フォルクロリタス」の創立メンバーでもある。作曲家としては、ギターのための作品のみならず、他の楽器のための独奏曲、室内楽曲、交響曲等の他、映画、演劇、舞踊やドキュメンタリーのための音楽も書いている。《銀細工》は、銀細工で有名なタスコ市の職人による芸術的装飾品を表わした曲だと思われる。
◆瞑 想/レオナルド・コラル
レオナルド・コラルは1962年メキシコシティ生まれの作曲家。ホアン・カルロス・ラグーナの委嘱により、1998年に死去したギター製作家、河野賢に捧げられた曲《エレジア》という曲を書いているが、その他の詳細は不明。
◆エチュード10,11,12/エイトル・ヴィラ=ロボス
ブラジルの作曲家エイトル・ヴィラ=ロボス(1887-1959)は、多くの人々から「ラテン・アメリカの生んだ最大の作曲家」と認識されている。非常な多作家で、ありとあらゆるジャンルにわたり1千曲以上の作品を書き残しているが、その中で、質の高さと人の心を直に打つ魅力によって珠玉の光を放つのが、彼の手になる一連のギター曲である。中でも《エチュード》全12曲は、妙味あふれる演奏効果とヴィラ=ロボスが常に備えていた民族的性格と豊かな抒情性により、《プレリュード》全5曲と並んで、今日広く愛奏されている。作曲は1929年、ずっと遅れて1953年に出版されたこの曲集には、献呈を受けたスペインの名匠アンドレス・セゴビアが序文を寄せ、「実用的な意味合いを超えて、ショパンやスカルラッティのそれにも匹敵する高い音楽性と詩的情緒をそなえた練習曲集」だと絶賛している。
◆大聖堂/アグスティン・バリオス
1.アンダンテ・レリジオーソ
2.アレグロ・ソレムネ
アグスティン・バリオス、芸名“マンゴレ”(1885-1944)は、南米パラグァイに生まれて諸国を遍歴した末、中南米エルサルバドルに没した天才的なギタリスト・作曲家である。彼の代表作として知られるこの曲は、彼がウルグァイの首都モンテビデオで体験した宗教的な感動に基づいている。町並を歩いていた彼は、ある大きな教会から流れ出てくるバッハの音楽に吸い寄せられ、中へ入っていった。聖堂の中での厳かな祈りの雰囲気、それを映したのが、この曲の第2の部分<アンダンテ・レリジオーソ>(宗教的なアンダンテ)である。やがて祈りを終えた人々は三々五々教会から出ていくが、その表情や態度には、なお醒めやらぬ宗教的感動の余韻がただよっている。そうした情景が、第3の部分<アレグロ・ソレムネ>(荘厳なアレグロ)となった。更にバリオスは、ギターの高音域を使って歌われる<前奏曲>(サウダーデ―郷愁、追憶―の副題を持つ)を第1の部分として付け加え、今に伝わる三幅対の形にした。
◆森のなかで(1995)/武満 徹
1.ウェインスコット・ポンド
―コーネリア・フォスの絵画から―
2.ローズデール
3.ミュアー・ウッズ
各章に附されたタイトルは北米の地名でそれぞれの場所に、美しい、大、小の森がある。
ローズデール―Rosedale―の森はカナダ、トロントの閑静な住宅街をつつむように舗道に沿って走る潅木の茂みであり、初秋の陽光(ひかり)を浴びて美しい。
ミュアー・ウッズ―Muir Woods―は、サンフランシスコ郊外にあり、ミュアーという篤志家によって保護された巨大なセコイア樹が、天を突くように聳え、深い森をつくっている。そこでは人間の卑小さを思いしらされる。
ウェインスコット・ポンド―Wainscot Pond―を、実は、私は未だ訪れたことがない。それがアメリカの何処にあるのかも知らない。友人から送られてきた絵葉書に印刷された美しい風景画の下に、小さな活字で、Wainscot Pond とあった。池の向こうに、私には、沈黙する森が見えた。
ここではたんに森の情景を描写するのではなく、森のなかで、感じ、考えたこと、また行動を共にしたひとびととの懐かしい思い出を描こうと思った。(武満徹)
◆変 貌/エルベルト・バスケス
メキシコのギタリスト・作曲家と思われるが、詳細は不明。
◆リトマス・ディスタンス(1980)/吉松 隆
1.酸性のベドウィン
2.アルカリ性のベドウィン
夢の中に、淡い色をした青い砂漠と赤い砂漠とがある。そこに乾いた瞳を持ったベドウィン(遊牧民)たちが棲んでいる。
酸性のベドウィン、そしてアルカリ性のベドウィン。つまりはリトマス試験紙の上の架空の砂漠らしいのだが、彼らは砂の上に腰をおろし、ギターによく似た弦楽器を抱きかかえると、遠い幻のような不思議な歌を歌い始める。
私はそれを採譜し、リトマスによせるディスタンス(遠景)を想う。
この曲は、山下和仁氏のために書いた最初の作品で、アラビアのウードあたりを想定した疑似民俗音楽とでもいうべき曲。アラビア音階風の特殊な調弦を使ううえ、後半では、演奏しながら胴を叩いてリズムを作り同時にチューニング・ペグに引っ掛けた風鈴を鳴らす、というアクロバットのような離れ技が要求される。(吉松隆)
◆組曲「コユンババ」作品19/カルロ・ドメニコーニ
1.モデラート
2.モッソ
3.カンタービレ
4.プレスト
カルロ・ドメニコーニ(1947- )はイタリアのギター奏者かつ作曲家で、独創性の強い、しかも総体的に親しめる作風をもって関心と敬意を払われている。1985年に作曲されたこの《コユンババ》は近来とみに広く演奏されているドメニコーニの代表作で、トルコの民俗音楽から霊感を得ており、題名は同国の地名、美しい湖がある古い村の名だとも、またそこに住む伝説的な羊飼いの老人の名だともいう。ともあれドメニコーニは、夫人がトルコの人であるところから、しばらくこの国に暮らし、その間に見聞した民俗音楽の諸要素や、風物・風俗のかもし出す雰囲気を、この曲に写し出しているのである。
《コユンババ》の独創的なところは、作曲上の技術的な面―調弦法にもある。すなわちニ短調(または嬰ハ短調)の和音が開放弦のみで響くように調弦し、それによって独特な響きが生ずるように書かれているのである。
<組曲>と名付けられているように、4つの楽章ないし部分から成る。
参考文献;作曲者自身の言葉以外は、一部を除いて、濱田滋郎氏によるCDの曲目解説を引用しました。
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